コーランでは、ジャハナム(イスラム教における地獄)を監視する任を負うのは、ヘブライのサタンにあたる堕天使イブリースではなく、高潔な天使マリクであるとしている。

地獄において「乱暴に突く者」と呼ばれる19人の天使たちに管理され、責め苦に苛まれる罪人たちは、彼ら天使を監視・統率する地獄の官吏マリクに救いを求めるべく、「おお!マリク」とその名を称え叫び続けるという。しかし、無慈悲なマリクは業火を掻き回し苦痛にもがく魂を火炙りにしながら、その叫びには冗談をもって応えるのみである。

だが責め苦にあっている魂が「アラー、哀れみ深き、慈悲深き方」と唱えると、少なくとも「乱暴に突く者」からは逃れられる、といわれる。

このようにマリクは心改めた罪人に対しては、地獄で応報の罰を受ける不信仰者に比べ、優しく取り扱う。これは生前罪を犯した者でさえ、真実を信じる=アッラーへの信仰へ帰依する者は、いつの日かムハンマドの手によって地獄から解放されるという事をマリクは知っているからである。

ちなみに不信仰者に下される罰とは、例えば、「礼拝を怠り眠った者は石で頭を砕かれ」、「姦通の罪の人は裸で炉に投げ込まれ」、「必要以上に利息をせしめた者は、河を永劫泳がされ、岸に着く度に口に石を詰められる」という極めて過酷なものであった。

マリク/Malik