女性の天使(ヤザタ)であり、その名は「汚れ無き者」「清浄」「無垢」を意味するという。アナーヒターは「河」、またはそこに流れている水を司る。古代ペルシャでは、河が氾濫することで土地に滋養を与え、新たな芽吹きを得ていた。そこから、アナーヒターは豊饒や安産などいわゆる地母神的な役割のほとんどを司ることとなったのだ。

ゾロアスター教の聖典「アヴェスター」によれば、アナーヒターの姿は「力強い色白の腕をし、黄金の四角い耳飾りと星を散りばめた頭飾を身に付け、帯を高く締めた美しい乙女」とされる。また、彼女は数千、数万の力有る軍勢を率いる。戦士たちは百頭の馬、千頭の牛、万頭の羊を捧げて戦の勝利を願った。

アナーヒターは、家畜の生殖・作物の豊穣の神でもあり、財産や土地の増大をも司っている。このように現世の人々に大いなる加護を与えてくれるこの女神は、ササーン朝ペルシャの時代には極めて篤く崇拝された。また、アナーヒターを謳うアヴェスターのヤシュト(讃歌)の質・量から、彼女への信仰の深さが窺い知れるだろう。

また、アナーヒターは、ハラフワティー・アルドウィー・スーラー=「水を持つ者」「湿潤にして力強き者」とも呼ばれる。このハラフワティーという名から、インド神話のサラスヴァティーと同起源とも考えられる。さらに彼女は、豊穣神としての性質から、メソポタミアの女神イシュタルと同一視されたことで、その崇拝がより広範に広まっていったようだ。後にギリシャでも崇められ、現地語でアナイティスと呼ばれた。また、リディアではキュベレイ、アルテミスとも同一視されたようだ。イスラムでは金星に対応するという。

アナーヒター/Anahite