「神の剣」を帯び、神の命により人間への罰を与えるために遣わされる天使。破壊の天使には名の無い者も相当数存在し、総数はユダヤの伝承では9万体といわれる。与えられる罰は単純な破壊だけでなく病気、伝染病、疫病、災難、または死という形をとることもある。その仮借ない悪魔的な破壊行為は カバラの「ゾハール」(光輝の書)に「あらゆる崩壊に破壊の天使が関わらないことは無い」と記され、ヨハネの黙示録にある、罪人を罰するべく繰り広げられる惨劇は、まさしく地獄そのものといえる程に凄まじい。

ここに破壊の天使のエピソードを一つ挙げておこう。「歴代誌 上」に、イスラエル王ダビデの「サタンに唆され行った国の人口調査」を罰する為、神は破壊の天使を遣わせたとある。神はダビデの行動をいらぬ詮索と考え、国全土を疫病が襲わせ七万のイスラエル国民を無残に殺すという罰を与えた。ダビデは天使に薦められた「生け贄」を祭壇に捧ぎ、神に許しを乞うことで、イスラエルは救われたという。 

破壊の天使の概念は、近現代の一般的な認識「善と守護と慈善を行うだけの存在」とはまるで相容れないだろう。初期の伝承における天使の実体は、神の指示を褒美であれ罰であれ、本質的に「善・悪」の隔たり無く、ただ単純に遂行するだけの存在であったのだ。

破壊の天使として知られるのは、ケムエル(カマエル)、シムキエル、ハルボナー、ザフィエル、アフ、コラゾンタ、ヘルマー、アズラエル、そしてウリエルもその一員とされる。一群の長はケムエル、もしくはシムキエルもその役割を果たすという資料もあるようだ。また、背徳の街「ソドムとゴモラ」の住人ロトに街の破滅を宣告した3人の天使にはガブリエルも含まれており、彼女も破壊の天使といえるだろう。

破壊の天使/Angels of Destruction